2013年7月20日土曜日

ゲームスタート デジタル・カノジョ。 1.

1.ゲームスタート デジタル・カノジョ。


「一緒に手をつないで歩けますか?」

「うーん。難しいのかな。選択肢としてはあるけど。」

「一緒に映画には行ける?」

「行けるよ。チケット代浮くね。」

「でも他の人の迷惑になるんじゃない?」

「迷惑とは何事か。」

「ごめんなさい。」

「……例えばだけど、結婚とかできるのかな?」

「……。」

「あ、いや、そういうのあるのかなって。」

「気持ちの問題……?」


コンビニの片隅で、一人の少年がマイクに向かって、ヒソヒソと話していた。耳には、イヤホンがついていて、そのどちらもが、彼の手元の機械、玩具に接続されていた。その玩具とは、任天堂が発売している携帯ゲーム機、ニンテンドー3TSである。三つの画面の一つには、中学生くらいの美少女が映し出され、他の二画面には、ゲームの中の景色とか、電話などのアイコンが並んでいる。

そう、彼はゲームの中の女の子に話しかけていたのだった。好奇の目で見られそうな光景だが、幸いコンビニの中に人はなく、ただ一人の店員もバックヤードに引っ込んでいるようであった。


「ちゃんと話したのは初めてだっけ?こういうこと。」

ゲームの中の少女が話しかける。

「そうだね。まぁ、さぐりさぐりだったから。」

「実は、生き返る方法があるって言ったらどうする?」

「……え。」

「なんてね。」

「……。」

どうやら、この少年は、かなり重症のようである。物語の中の登場人物に恋をするように、ゲーム機の中の少女に恋をしているらしい。もっとも、3TSに挿入されているゲームは、恋愛シミュレーションゲームのようだが……結婚を話題にしてしまうのは、やはり重症だと思えてしまう。

この物語は、ゲーム好きの少年と、ゲームの中の少女の物語である。そして、遡ること2ヶ月前。

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