2013年7月21日日曜日

試し読み終了・二人のさらに奇妙な日々がスタートした。誰かの叫び Q。23-2.→24.

23-2.二人のさらに奇妙な日々がスタートした。

もはや見た目的には人間と携帯ゲーム機となってしまったが、二人は交際中のコイビトなのである。もうすぐ新学期が始まる。デートなどをするとしたら、どうするのか?そういう話である。興味本位でゲームの機能の中に『結婚機能』があるのか?聞いてみたら、非常に変な雰囲気になったりした。意味深な答えを返されて、東丸は意味深になっているところに、さらに意味深なことを言われる。

「実は、生き返る方法があるって言ったらどうする?」

「……え。」

「なんてね。」

「……。」

雪乃の言葉に東丸はどきりとした。そして、私もドキリとした。実は、東丸はタッチ一つで雪乃のステータスを確認する事ができた。のだが相手の体調や心を覗き見る事は申し訳ないと思い使用しなかった。その他にはカレンダー機能やスケジュール機能などもあったが、そちらは一通り確認してみた。面白いことに、店の入り口の貼ってあるポスター、彼の街のイベントも祝日などと併せて表示されていた。結構便利である。

こうして、もうきっと、未来もあわせて100年ぐらい使われていそうな文言だが、『こうして二人のさらに奇妙な日々がスタートした』。


24.誰かの叫び Q。

アニメやマンガのキャラが好きだとしても、当然だけど、結婚とかはできない。では、ボクはカノジョの肉体がすきなのだろうか?柔らかい。きっと、触れたら柔らかい。はずだ。人類が結婚とかするのは、子どもを産むためか?子孫を残すためか?では、精神・生命体として生きるカノジョでも、命を遺すことができるのならば?僕が思念体がアウストラルすれば、或いは……。



これにて試し読みが終了です。ここまでで約半分。ゲームの中に入ってしまった雪乃と、東丸の話は、クライマックスに向かっていきます。今後、電子書籍版などを検討しておりますが、どうしても続きを読みたい!という方が折られましたら、『劇団ヤルキメデス超外伝』まで、ご連絡くだされば幸いです。なんだかんだで、私が書いた小説では、一番の長編となりました。

世界の機能に関して自然と分かる。23-1.

23-1.世界の機能に関して自然と分かる。

「そちらはどうなってますか?」

「交差点と信号機。寂れた感じのスポーツ用品店、そちらと同じ通学路と考えて間違いないでしょう。」


雪乃がそう答える。二人は、試しにあのコンビニに向かっている。店に入ると、歯の抜けた店員が「いらしゃい」と声をかけてきた。東丸は、申し訳程度に作られた端の飲食コーナーに行き、雪乃に話しかけてみた。

「……おじさんは、そちらにいる?」

「いるよー。でも、今までと一緒で私のことは見えてないみたい。」

「……なるほど。」

大体の仕組みが分かってきた。雪乃のいる世界にも、東丸がいる世界と同じ世界が広がっている。東丸がTSを開いている間は、カノジョの前に窓が開き、そこから東丸の姿が見れるらしい。東丸自身の姿は窓に投影されるが、窓が閉じている状態でも近くにいれば、どこにいるかは分かるらしい。話しかけられると声が聞こえ、雪乃の声も東丸に届くそうだ。よく観ると、窓が現れる辺りの両側に小さい黒い丸が一つずつ並んでいる。マイクとスピーカーなのだと二人は理解した。

歯の抜けた店員は、東丸の他に客がいないためか、バックヤードという名の自宅に入っていった。二人は、さらに今後のことなどを話し合ってみた。どうやら雪乃のいる世界は、実際にあるゲームのインターフェースと似た作りとなっていて、その中にいる雪乃は、その世界の機能に関して自然と分かるようだった。その辺りを探ってみる。

雪乃は東丸のことを名字で呼ぶ。 同じ世界が広がっている。22-1.→23.

22-1.雪乃は東丸のことを名字で呼ぶ。

「あれ?部屋の中、何か変わった感じ?」

声のする方を見るが雪乃の姿はない。あんまり引っ張る意味もないので(だって冒頭)起きた現象を端的に書いてみると、そこにはニンテンドー3TSがあった。

「わたぬきー?」

雪乃は東丸のことを名字で呼ぶ。どう考えても3TSの中から彼女の声がしている。まさかと思いながら、東丸は二つ折りになっているゲーム機をパカっと開いた。

「あ、いたいた。」

そこには雪乃がいた。雪乃的には、東丸を見つけたつもりなのだろうが、東丸が雪乃見つけたという方が相応しいだろう。幽霊のカノジョは、手の平に収まる携帯ゲーム機の中にいた。そう、私の仕業です。


23.同じ世界が広がっている。

幽霊になった幼馴染の女の子が彼女となり、さらにゲーム機の中に入った。なかなか信じられない状況だが、どこからが信じられない状況なのだろうか。例えば、小説やマンガなどの物語の設定を考えると時に「IF」は一つに留めるという定石がある。例えば、「罹患すると花嫁が死にゾンビとなる奇病(笑)」なるモノを考案したら、それを主として世界感を膨らますべきであり、もしも、その世界に異次元からの侵入者や神などが存在すれば、取り留めないのことになるだろう。

しかし、世界には一言で説明できない現象も存在する。東丸と雪乃は、なるべく状況を理解すべくTSの中の様子と、現実の世界との違いなどに関して、調査することにした。

私の出番でしょう。22.

22.私の出番でしょう。

夏休みにカノジョとカレが出来たリア充カップル。綿貫東丸も、最初は浮かれていた。勿論、先の先を考えれば、浮かれている場合じゃないのだが、「よくある話」。具体的に何をする訳でなくても、その事実だけでウキウキした。その日から、登校も、下校も、なんでもないオシャベリも全てがデートなのである。英語で日付という名前で知った単語を別の意味で使う日々が来たのである。

しかし、彼女。春野雪乃はユーレイ。幽霊の彼女が出来たから、四六時中一緒で、プライベートなんてありゃしない。学校に行っている時とかはともかくとして、せめて、寝る前は一人でいたい。寝る前は特に一人でいたい。女の子は、男のそういう部分をまだ知らない。これは、私の出番でしょう。なんだかんだで、しばらく幽霊との交際が続いたのだけど、ある日の朝……。

「……あれ?」

目を覚ますと雪乃の姿がなかった。いつもは、彼女の方が先に起きて、散歩していたり、夏休みに入る前は学校の準備を手伝ってくれてたり、ふわふわと二度寝をしていたりしていた。念のため押し入れをノックしてみる。返事はなく、中にも気配はない。

いつか来る日が、今日来たのか……と東丸は思ったが、実のところ、私の仕業です。もう既に知っている人も多いと思うけど(知ってないとおかしい)、まぁ、彼の願いを機械の神なりに叶えてみました。

「ふわぁ~あ。よく寝た。」

雪乃の声がする。途端に東丸の表情はぱっと明るくなったのだが、それを雪乃に見られると恥かしいのですぐに抑える。なんだいたのかと、ほっとする東丸。

インターミッション③ 今日のキミの決定が。風説 弐。風説α。19.→20.→21.

19.インターミッション③ 今日のキミの決定が。

人と世界は関係している。例えば、世界が明日全部壊れたら、君らはみんな死んでしまう。世界は人より大きい。世界は人を内包する。だがしかし、世界もまた、人からの影響を受けている。例えば明日、人が全員で自殺するならば、世界から人は消え、そこは人のいない世界となる。その日から、世界のあり方は大きく変わる。

バタフライエフェクト。

人と人も関係している。誰かが誰かを変えたならば、その影響はとなりの誰かに伝わるかも知れない。人と人はつながっている。そして、人と世界は関係している。例えば、誰かが、何かを変えたなら、それは誰かに影響し、世界を変えていく。かも知れない。今日のキミの決定が千年後の銀河をかえていく。かもね。神より。


20.風説 弐

お父さん、このポスター去年のですよ。

お、そうけ。というか、ずっと貼っとったのぅ。

新しいのに貼り変えます?

まぁ、毎年、同じ日付やからな。ええやろ。

今年も賑わいますかねぇ。どうします?

まぁ、分からん。仕入れはいつも通りでええやろ。


21.風説α。


阿部埜彌玖珠が大変なことになっているみたいよ。

何だって!?本当だ!人類における精神世界が死屍累々になろうとしている。

人類全体の深層意識の下部がガックンガックンになっているね。面白いね。

ちょっと、ここいらで選手交代といきましょうか。

すまん!これからしばらくは、観察者として頼みますわ。

という訳で、精神の神(笑)であるカネは阿部埜彌玖珠退治で一時離れます。ここからはワタクシ(せいいっぱいのキャラづくり)機械の神こと、モノがお送りいたします。以上、異次元からの閑話休題でした。

2013年7月20日土曜日

女の子はお腹がならない。18-1.

18-1.女の子はお腹がならない。

「うどんは、嫌い?」

「嫌いじゃないけど、わざわざファミレスじゃあなくても?お店の方が美味しくない?」

あえて言うが、バカップルとでも言おうか。腹がなった不思議はさておき、うどん定食をファミレスで食べるかどうか?という話題で、彼らは夢中になっている。数年前から、もともと身近であった『うどん』という食べ物は、より身近になった。B級グルメなんて言葉も生まれたが、ごくごく普通であった食べ物が、安い、美味いという付加価値がつけられた感じはある。物質の組成だけを考えれば、うどんもパンも、グラタンコロッケバーガーも差異がないことに、気付かない人は多い。

「ファミレスのうどんも捨てたものじゃあない。」

それはさておきとして、彼らは既に『うどん』を食べに行く具体的な算段を立てているが、彼女のお腹がなった不思議に関して補足しておく。女の子はお腹がならない。十二指腸の先は夢の国に繋がっている。そういう話じゃあない。

カノジョは幽霊なのである。声が聞こえるのはテレパシー的なモノかも知れない。でも、幽霊が空腹でお腹を鳴らせた。その音は、空気という物質で満たされた空間に響いたのか?それとも、超概念的な何かとして、彼女のことを視認出来ている彼に対してのみ響いたのかも知れない。

これは一つのあるあるなのかも知れないが、見えない彼女が『うどん』を食べたとしたら、幽霊の彼女の身体の中を通るそれは、どのように見えるのか?そこは興味深いところではある。また、東丸以外には不可視の存在がうどんを食べる時、麺が宙を浮くように見えるのじゃないか?という懸念がありそうだが、実際に麺は宙を浮いていたのだが、何一つ問題は起きなかった。案外、人が食べているところは、注視されてないモノである。

ともあれ綿貫東丸は、この夏休みに幽霊の彼女ができた。春野雪乃は、幽霊の状態で生きた男子と交際(?)をスタートさせることとなった。

幽霊がうどんを食べる。誰かの叫び 破。18.←17.

17.誰かの叫び 破。

これはね!格差社会ですよ!えぇえぇ。生きているということは現実を見ていくということ。それにプラスして、恋愛という非現実を考える余裕があるなんてのは、食う、寝るが足りて、それ以上のナニカを得ることができたリア充なんですよ。学歴、収入、色々な尺度で測られる現代社会において!もっと、生物としての力!生き物としての本能を一つの指標としてですね……!


滅!これが悪の陰陽術『阿部埜彌玖珠』により召喚されし式神です。今、一匹倒しました。まだまだ、沢山いそうです。神様より。


18.幽霊がうどんを食べる。

二人がギクシャクしているところに、東丸に電話がかかってきて、二人とも寄り合いに出るから、どこか外で食べてきて……とのことだった。女の子を焼鳥屋に誘う訳にもいかないので、ファミレスなんかを提案してみる東丸少年でした。付き合ったら一緒にご飯を食べに行く……というのも幼稚な発想だけど、中学生なら仕方がない。さらにアイスを食べた後なのに、ご飯の話をしていたら、お腹まで鳴り出す始末。

「うどん定食とか?」

「うどん……。」

「あ、別にアダ名とかでじゃないからね。」

「あ、いやそうじゃなくて、幽霊がうどんを食べるって……。」

「?」

ここで東丸は、とある話をした。

「あ、それ。読んでなかった。知らない。」

「……あ。そう。」

自分が好きなマンガが読まれてなかったことに対するリアクションの名称って何か?と考えたが、答えは単純でガッカリだ。今まで触れてなかったが、雪乃は寝ている間に死んだためパジャマ姿である。

参考文献。

パジャマな彼女。 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)

心の声の言葉遣いに男女差はあれど。16-1.

16-1.心の声の言葉遣いに男女差はあれど。

「あのさ。他に何か、やりたいことって残ってない?」

「やりたいこと?」

「マンガとかでよくあるけどさ。やっぱり幽霊は未練というか、生きていた頃にできなかったことをやりたいと思うんだよね。」

東丸は『成仏』という言葉を使うのを避けていた。

「幽霊っていうか、私ね。」

「うん、ま。そうなんだけど。」

二人は沈黙してしまった。ここで、ハッキリとした答えを出さないといけないのかも知れない。

雪乃は考えていた。ずっとこのままの気楽な関係が続いていけばいいと思う反面、常識的な考えが同時に存在する。「このままでいいのか」と。だけど、そのことを伝えて、それが解決策じゃあなかった場合、どうなってしまうのだろうか。東丸もまた考えていた。一番好きだった人が死んでしまって、悲しいのは何故だろう。もちろん人が死んで悲しいというのは当然かも知れないが、もしかしたら悲しいのは自分かもしれない。

伝えることができなかった言葉。もう会えない。悲しさとは、残された自分の方にあるのだとしたら。あるのだとしたら。もしも、伝えることができるなら。意志の疎通をはかれるなら。そう、雪乃が幽霊として現れたその時に、自分の思いを伝えるべきだったのである。

心の声の言葉遣いに男女差はあれど、二人はほぼ同じことを考えていた。「でも、もしも成仏できなかった場合はどうなるのだろうか?」。そして、二人が考えることで大きく違ったのは「好きとは言わない。」と「たしか好きな人がいたはず。」ということだった。二人がそれぞれに考えて、導き出した言葉は……。

「だ、男女交際とかに興味があるかな……。」

という告白。

「じゃ、じゃあ……デートとかしてみる?」

という返事。それはとてもギクシャクしたモノだった。

風説 壱。大きく違ったのは。 15.→16.

15.風説 壱。

一人で四つも買うなんてアイスが好きなんやのう。丸坊は。

そろそろ晩ご飯にしましょうか。今夜はヒジキですよ。

おお。じゃあ、今日は一杯やりますかな。

可愛らしいカップルのお客さんは、もう帰ったの?一人二つなんて食いしん坊な子達ですね。


見えるってことは棺桶に足突っ込んでないかな。大丈夫かな。ちょっと毒を吐いてしまいました。すみません。神様より。


16.大きく違ったのは。

神社の境内にあるベンチで二人は座っていた。アイスの棒が四本。包装のガラも四つ。食べ終わった後に、黄昏て呆けているようだ。

「美味しかったね。」

「うん。あいすまんじゅうって美味しいな。初めて食べたけど。」

「でしょ?」

二人は言葉には出さなかったのだけど、私は二人が考えていたことが分かる。二人して「な、何も起きない……。」と考えていた。雪乃が死ぬ前日にできなかったこと。アイスを食べる。それは、達成された。勿論、東丸と一緒に食べる……という意味である。それだったら、「未練は何か?」と東丸は考えていた。よくよく考えれば、それは東丸の悔いであり、雪乃の未練かどうかは分からなかった。ただ、当の雪乃も自分が死亡する前日のことを考えてみて、アイスが思い浮かんだ。二人の頭の上に大きな『?』が浮かんでいるように見えた。しかし、東丸は意を決したように、やはりスクリと立ち上がり言った。

二人で四つ。14.

14.二人で四つ。

午後になって、少しだけ陽が陰った頃、二人は出かけることにした。夕飯前だけど、アイスの一本くらいはたいしたことないだろう。風は温いが、日中の暑さに比べると穏やかであり、心地よい。あの日、寄らなかったコンビニを目指して、二人はとことこと歩いている。

オーパーツ。さっきまでは元気よく話していた二人が急に黙ってしまったのは、アイスが今起きていることの核心であり、それをなすことで二人の今の関係性が終了することを感じているからかも知れない。彼女の心残りのアイス。それが成仏のきっかけ、オーパーツなのかも知れない。

コンビニについた。二人が子どもの頃は、何か別の商店で、今もその名残なのか、明らかにコンビニぽくない商品も店先に並んでいる。きゅうりとか。ドアの近くには古めかしい風鈴が釣り下げられており、それはきっと昔からあったのだろう。建物だけが新しくなったのかも知れない。

「何がいい?」

念のため、店に入る前に聞いておく。

「パルムの新しい味。」

「パルムね。」

短く確認すると、東丸は自動ドアに向かった。

「あ。」

「?」

「あいすまんじゅうが入ってたら、そっちの方が。」

「アイスマンジュウ?」

「あ、やっぱ私もついてく。お店の中では話しかけないから。」

一つだけ補足をしておくと、『あいすまんじゅう』は美味い。二人は店内に入り、アイスコーナーに向かう。冷凍コーナーには明らかに売り物でない冷凍食品も一緒に入れてある。これをレジに持っていったら、店の人はなんて言うのだろうか。パルムの新しい味は二つあり、あいすまんじゅうもあったので、二人で四つ。事情を知らない人からしたら、一人で四つアイスを大人買いする中学生に見えるかも。歯の抜けた店の人は「ドライアイスいるけ?」と聞いたが、東丸は断った。雪乃は、少し欲しそうだった。

リア充爆発しろ!とは。13-1.

13-1.リア充爆発しろ!とは。

あの日、アイスを食べていれば……。東丸は、あの日からアイスは食べてなかった。シューアイスは食べていた。あの日、コンビニで買う予定だった。かもしれない。棒付きの一〇〇円から一六〇円の間くらいのアイスは、意識的に避けていたかも知れない。

「な、なぁ、やっぱり……あの日。」

「ほらほら、何をごにょごにょ言ってるの。そうと決まったら、行きますよ?」

雪乃もどこか、それ以上の話題の言及を避けた感じがあった。宙に浮いた状態で東丸の肩をぐいぐいと押す。そして、珍しいことに空中で、ずるりと足を踏み外した。どうなってんだ、これ。

「ひゃ!」

「うわ!」

東丸は、この時のことを一生忘れないであろう。どれくらいの人間が、その短い生涯の中でそういった体験をするのだろうか。相手が幽霊であることが一番特異的ではある。それは差っ引いたしても女の子がドジしてずっこける。とっさに後から抱きつく。そして、胸と背中がぶつかる。そう、おっぱいが触れる。首筋に髪の毛もかかる。

その前から気温により東丸は、体温でじんわりしていたが、その瞬間にさらにじんわりすると思われた。ただ、幽霊のおっぱいが背中に触れる。感触と弾力と、その次に分かったことは幽霊には体温はない、ということだった。いや、分かっていたことを再確認した。リア充爆発しろ!とは言い難い案件である。

この時のことを一生忘れないであろう。13.

13.この時のことを一生忘れないであろう。

子どもの頃にピーマンが苦手でも、大人になったら食べられるようになる人もいる。「大学入ってビールを飲むようになったら味覚が変わりましたわ。」なんて声もある。お前、浪人してないだろ。十九歳だろ。子どもがピーマンが嫌いなのは、苦味を自然と毒物と感じるかららしい。そして、それが平気になるということは、味覚が鈍化した証拠らしい。味覚に限らず、人間は生きていく中で、色々な感覚を鈍化させて行く。季節に対する感情も、十四回目の夏と、三十三回目の夏とでは、やはり感じ方が変わってくる。きっと、それは、来年も夏がやってくることを意識した数の違いなのかも知れない。

二人の十四回目の夏は、これまで知覚している九回ばかりの夏とは違い、そして、同じような夏は、もう二度と来ないだろう。彼らがそう感じているとは思えないが、『夏』という言葉が生まれる前から夏を経験している私に比べると、格段に鋭く、そして全身で夏を感じているハズだ。つまりは……。

「あ、暑いよ~。」

「まぁ、夏だしね。」

幽霊が暑さを感じるのか?というのは、既に過ぎた話題である。何しろ、この幽霊はうどんを食う。いっけね、うどんを食べるのは、この後か。なんだかんだで雑談したり、夏休みの宿題をしたり、時々二学期の予習をしたり、何もしなかったりで時間だけが過ぎていた。

「アイス食べに行こうか?アイス。コンビニのアイス。」

「あ、ああ、いいね。」

アイスと聞いて、東丸は、やはり思うところがあった。

誰かの叫び 序。風説b。11.→12.

11.誰かの叫び 序。

カノジョのことをずっと好きでいることに何か意味があるのだろうか。人と人が生きていく意味。恋愛の果て。最終的に行き着く地点。死。だとしたら、次の世代に何かを残すことが、人生の最終目標かも知れない。

僕とカノジョは、それができなかった。いや、まだ先のことなのだけど、それができそうにない。結婚しない人生。心の取り決めの意味では、結婚しているのかも知れない。しかし、現実社会的、生物的には、結婚しない人生。子孫は生まれない。ここで、途絶える。そういう人生。

最後にどう死ぬか?死んだ後にどう生きるか?を考えてしまうと、それは、自己満足でしかないのだけど……それでも、その先を考えない訳には、いかない。なぜなら、僕はまだ永遠の中学生だ。いっそ思う。二次元が来い!二次元が来い!と。税金を多く払う。だから、オレを嫁と結婚させてくれ。ええい、畜生、充電忘れちまった!セーブできてねぇ!


この豚野郎め。神様より。


12.風説b。

あのコ、あれから全然、勉強もしてないみたいなの。

まぁ、世間的にはまだ夏休みだ。いいんじゃないか。

やっぱり、まだショックで立ち直れないみたい。

そういうのを乗り越えて、大人になっていくモノだ。そういうものだろう。

でも……最近、あのコ、独り言が多いみたいで。

……独り言が言いたくなる年頃なんだろう。

でも……誰かと話しているみたいなの。それも、多分、女の子と。

……。

男と女は難しい。10-2.

10-2.男と女は難しい。

東丸も、そして雪乃も本当の気持ちを言えば、生き返る方法を探したいだろう。しかしながら、幽霊である事実と、既に起きてしまった事実と、その間を埋める何かを見つけること、見つける方法すらも見当がつかなかった。

「まぁ、幽霊になる訳だから、きっと天国とかあると思うんだよね。だったら、遅いか早いかの違いじゃない?」

「……うん。」

「あ、そもそも地獄を選択肢に入れてないあたりに引いた?」

「勘ぐりすぎだよ。」

確かに、勘ぐりすぎだ。どちらかと言うとワンセットで用意していた発言のようにも思えるのだけど、雪乃はこういう「ぽい」ことをする女の子だったし、東丸も、それが苦手ではなかった。

「一夏くらいゆっくりしても?」

それは、中間の答えとして東丸はそう思っていた。

「んー。だめだめ。そうやってのんびり構えていると、冬になったら夏を思い出して、夏になったら鍋物とかが恋しくなって、気がついたら年をとってるって。」

「どういうこと?」

「親戚のお姉さんが言っていた。」

二人の会話は、ここから完璧にロストした。つまりは、期間と目的を設定しておかないと、人生はズルズルになると彼女は言いたかったようである。中学生女子も、しかも幽霊になってからも愚痴って言うのですね。親族の女性のだらしなさをひとしきり言った後に、言う。

「まー、綿貫君も、今のままじゃ良くない時が来るかも知れないから、早いにこしたことないってことですよ。」

彼女は言葉の裏に「気付いてね」という意味を込めていたのだけど、東丸は気付いてなかった。言葉にしないと伝わらないこともあるもので、幽霊になっても、男と女は難しい。

この世から失われたモノが再び現れる。10-1.

10-1.この世から失われたモノが再び現れる。

「壊れるって言っているだろ。」

「ちぇー……。」

「さて。夏休みに入ったことだから、そろそろ本腰を入れて考えていかないといけないな。」

東丸は、かねてから考えていたことを雪乃に言うことにした。真剣な話題に入るのを意識したのか、わざとらしくスクリと立ち上がった。

「そうですね。志望校とか、進路とか、考えないといけないね。」

「……。」

「あ、違った?進研ゼミやる?今やる?」

彼女はわざと話題をそらしているのだろうか?志望校なども勿論大事だけど、そういうことではなく。ただ、そらされてしまうと、次に話そうとした話の核心は、つまりは『別れ』を意味する訳で、口から出すことが憚られる。だから、東丸は、なるべく明るく切り出そうと、笑顔を作ろうとする。

「どうしたの?顔がつった?」

しかし、それも筋肉の強張りに勘違いされて、なかなか、上手く行かない。彼が話そうとしていたのは……。

「そろそろ、ジョーブツのことも考えてみますか?」

「え。」

まさに自分から話そうとしていたことを相手から話されると面食らう。それは偶然かも知れないし、彼女は分かっていたのかも知れない。


「いつまでも、こうやってダラダラしている訳にもいかないしさ。ユーレイって言ったら、やっぱり成仏じゃない?」

「ん、んー。まぁ、そうだね。」

「もしも、生き返れるなら、生き返りたいけど、もう幽霊になっちゃったしねぇ。」

二人は具体的に触れなかったけど、お葬式はもう既にすんでいた。幽霊は、もう目の前にいる。だけど、この世から失われたモノが再び現れるということは、想像が難しい。

彼と彼女の関係が。 ユーレイって言ったら、やっぱり。9-1.→10.

9-1.彼と彼女の関係が。

まぁ、生きている時間を金額換算し、自身の価値を金銭化していくことで、人類世界が回っているなら、それはそれでいいのですが、最近、それに調子に波乗り悪乗りしちゃって、邪悪なる陰陽道の秘術『阿部埜彌玖珠』の封印が解かれてしまったことが懸念です。

比較的干渉できない立場にある私は、彼と彼女の関係が、魂の世界にも、波紋を起こしてくれるのじゃないか、と、少し期待をしております。まぁ、ぶっちゃけると神という立場的には、飢えて死のうが殺して死のうが等しく平等なんですが(笑)。救う救う全員救う。

10.ユーレイって言ったら、やっぱり。

最近は、昆虫も両生類も少なくなってきたが、東丸の住んでいるあたりはあまり関係ない。じーわじーわと何かが鳴いている。今日から、夏休み。二人は居間で、扇風機の前で涼みながら話している。

「だらだらと過ごしている間に、もう夏休みになってしまいましたが。」

「ダラダラしてないよ。テスト勉強は結構やったし。」

「しかし、暑くなってくると、夏なんだなーと。えい。」

「あ、こら。首が壊れる。」

幽霊が気温を感じるのか?と言われれば、私は幽霊になったことがないので分からないが、『夏』という概念的なモノが「暑い」という感情を呼び起こすかもしれない。扇風機の首を回転させていて交互に二人に風を送っているのだが、彼女が首を固定し自分にだけ風を独占しようとしているのである。ガッガッガッと音を立て、首が本来の動きを遂行しようとしている。

普通の学校生活だった。陰陽道阿部埜彌玖珠。8.→9.

8.普通の学校生活だった。

結論だけ言ってしまうと学校の中には雪乃の姿を見れる生徒はいなかった。彼女の両親もそうだったが、同じクラブだった子達も親友と呼べた友達も先生も、先輩も雪乃の姿は見えなかった。声も聞こえなかった。一応、毎日学校には通ったが、授業に出たり、独りで屋上をフラフラしていた。

東丸も、雪乃と登校して、時々話したり、筆談する以外は普通の学校生活だった。期末試験には、無敵カンニングを提案されるが、少し迷った後で断った。ただ、国語の選択問題を一問だけ教えて貰った。終了時間ギリギリまで悩んだので、「あり」ということにして落ち着けた。試験は無事に終わり夏休みとなった。


9.インターミッション② 陰陽道阿部埜彌玖珠。

こんにちわ。精神の神、カネです。ちょっとこの世界のことを語ってみますが、興味のない人はスルーしてもらってオーケーです。読み飛ばし可。

人類の発展は、それすなわち情報の発展とも考えることが出来ます。遠い未来に地球表面の情報集積率が最大限に高まり、宇宙の彼方にあるアカシック・レコードは、実は地球なんじゃない?という有名な学説も、最近は、想像じゃあないかも?と思えるようになってきたのでした。

数千年かけてそうなっていくことは、私は別に否定しないのですが、最近、なんだかなーと思うのは、人の心、精神、魂と本来ならば共同幻想と言いますか、人の間でしか意味を持たない通貨、仮想された価値というのが、魂と等価に考えられる昨今は、魂を司っている私としては、なんとも微妙です。

風は気持ちの良い感じ。風説A。6-2.→7.

6-2.風は気持ちの良い感じ。


「でも、実際にユウレイになってしまうと、なんだかよく分からないな。こうやってアンタに触れることもできるし。」

「そうなの?」

「触れるって。さっきたたいたじゃん。っていうか、ほら。」

「うわ、背中に……!」

一人が幽霊じゃなかったら、昼休みのなんでもない時間。少し暑くなってきた頃。葉は緑色で、風は気持ちの良い感じの、良い感じの時間が、まったり流れていく。

下手だな。

うるさい。こうして、状況描写に関するハードルをあげてしまう、私こと、神であった。


7.風説A。

なんか、あいつ一人でボソボソ話しているんですけど?

そうなの?独り言じゃないの?

いや、なんか、女の子の名前とか聞こえてくるのですけど?

……好きな子とか?

うわ、気持ち悪いんですけど。

あ……。この間……。

知り合い?ありえないんですけど。

ま、まぁ、独り言かもしんないじゃん。

独り言は一人で言えっつーの。きっしょ。

……『ですけど』を忘れてない?


んんー。女の子の会話って楽しいなぁ(うそ)。

ゲームが原作となった映画を思い出したり。6-1.

6-1.ゲームが原作となった映画を思い出したり。

下駄箱に着き、上履きに履き替え、教室に入る。東丸は緊張した。もしかしたら、雪乃の姿は、他の生徒にも見えるかも知れない。登校中は、誰にも見えなかった。でも、クラスメイトは違う。雪乃も同じ緊張をしていた。見えたらどうしよう。しかし、誰にも見えず特に何も起こることもなく、午前中の授業が終った。雪乃も空気を読んでか、静かに授業を聞いていた。東丸は、いつものように友達と弁当を食べ、そして教室を出た。

「ねぇ、どうして私、ユーレイになっちゃったんだろうね。」

「分からないよ。そんなこと。」

「本当にぃ?」

「分からないって。神様じゃないだから。」

神様もよく分かりません。

「ふーむ。やっぱり、何かミレンがあったのかな。」

「ミレン。未練か。」

私が常々思うのは、超常に出くわした時。彼らのフィクションへの関わりである。例えば、目の前にゾンビが現れた時にどう考えるだろうか?あのゲームや、あのゲームが原作となった映画を思い出したりしないだろうか。端的に言うと……。

「まぁ、マンガとかでもよくあることだけど。」

ということである。勿論、フィクションだから現実には起こりえない事。それが起きた時に、どう信じるか?というのは、分からないことなのだが……。

風説a。ミレン。5.→6.

5.風説a。

何かあのコ。寝る前にボソボソ話していたみたいなんだけど。

寝る前だったら、もう寝ていて寝言だったんだろう。気にすることない。

……そう。


6.ミレン。

「えーと。やっぱり学校にはついてくるの?」

「暇ですから。」

「あ、そう。」

「それに、もしも生き返れたりしたら、勉強してなくて、パッパラパーだったら嫌じゃん。保険保険。」

「……それはそうだね。」

東丸は、生き返るとしたら体とかどうするのだろうか?と考えた。幽霊が目の前にいるのだから、ファンタジーという意味では、人の体なんて楽勝で、よく分からない世界から練成されそうなモノだが……と無意識下に思っていたのかも知れないが、焼き場には行かなかったとは言え、カノジョの肉体が灰と骨になったのは、事実である。

適当に話をあわせながら、通学路の中で、比較的見通しがよく前後に人がいないのを確認しながら、二人はボソボソと話しながら、中学に向かった。やがて、それがいつものこととなる。雪乃は、他の生徒が歩いている時は、お喋りをやめ、フワフワと中に宙に浮き上がったりして、時間を潰していた。

「あんなちっぽけな所に、細い道を蟻のように連なって、粒々した中学生が歩いている。ふふ。人がゴミのようだ。なーんてね。」

人に見られないことが、少女を少しだけ大胆にするが、少年の傍に降りてきた時に、少しだけ不安を感じた。

「なーんてね。」

「痛っ。何?急に。」

『いた』だけ不意で大きな声を出してしまったが、その後は、小声で聞き返したが、雪乃はうやむやにして、東丸の少し前を歩いた。いや、浮いて進んだ。東丸は、彼女の真意が分からないままに、後を追う。意味無くこづいた彼女もまた、自分の行動の意味は分かってなかった。

三柱の神が一体となることで。4-1.

4-1.三柱の神が一体となることで。

私が観察を続けている少年達は知らないことだが、この世界には三人の神がいる。カネ、精神の神。モノ、機械の神。そして、ヒト、肉体の神だ。この世界は、私を含め三柱の神が一体となることで、成り立っている。そして私の名はカネ。精神の神である。カネダとかカネモトじゃあなくてカネである。

何故、その神が一人の少年を観察しているか?と言えば、彼自身も気付いてないことだが、彼の行動が、この世界の未来に大きく関わっているからだ。勿論、ヒトは、そのことに関しても不干渉でいることを主張したが、私は興味本位で彼らの動向を観察している。モノは結構ノリノリである。勿論、私なら彼の望むことを実現することはできるのだが、今それをしてしまうと、どうやらダメらしい。だから、私はただ観察を続けている。では何故このような無意味なカミングアウトをしたのか?と言ってしまえば……。

「言いたかった。」

からである。神とは、常に気まぐれなのである。君らの知る神のことは知らん。

「え?」

「私も、もう一度ね、会って言いたかったから。」


そこで会話は途絶えた。言葉を汲み取ろうとする時、察しようとする時、もしも間違っていたら……と思うと、きっと前には進めない。彼らは、まさに今、その年頃である。それが昨晩の話。しまった混ざった。

参考文献

ワークワーク 1 (集英社文庫―コミック版) (集英社文庫 ふ 26-4)

生者と幽霊の関係は。神の視点による、神の声であると言える。3-3.→4.

3-3.生者と幽霊の関係は。

少年と少女。生者と幽霊の関係は、それに近い。ある意味、先取りしているかも知れない。少年が少女の死を実感できないのは、彼女との対話が連続しているからである。もしも、彼女が見た目だけが同じで、記憶が連続していない幽霊として現れたなら、また感覚は違ったかも知れない。

「……迷惑じゃないよ。もう会えないと思っていたから、嬉しかったよ。」

それを聞くと雪乃は笑顔になり「よろしくね」と言った。もうきっと、未来もあわせて100年ぐらい使われていそうな文言だが、『こうして二人の奇妙な日々がスタートした』。


4.インターミッション① 神の視点による、神の声であると言える。

多少の違和感があったかも知れないが。なかったとしたら、それは計算違いになってしまうが。例えば小説の地の文の扱いに関して、その文章が誰の視点なのか?鉤括弧でくくられてない文章は、例えば、主人公の内面の描写であったり、或いは、作者の声であったり、もしくは、物語の全てを知っている存在のの言葉だったりする。それをどうやら『神の視点』というらしい。例えば、「昔々、あるところに……」という文章は神の視点による、神の声であると言える。

ところで、私は神だ。あまりにその部分を言及してしまうと、この世界は何なん?というようなメタ的な話になってしまうと、かなりヤヤコシイことになってしまうのだが、この声を聞く(あえて『声』って書いてみました)あなたに対して、話しかけてみると、私は神だ。

この辺りで読むのが嫌になる人が出るのじゃないかな?と思うけど、それだったらそれはそれでそれでいい。

少年の真意を探るという意図も込められている。3-2.

3-2.少年の真意を探るという意図も込められている。

「お、哲学的だねぇ。お姉さん、そういうの好きよ。」

「同い年。」

「そうでした。」

お姉さんて。

「そのさ。先ず、幽霊として出てくるってことがありえないんだけど。でもさ、何も変わってないよ?いや、そら生きてた時は浮いたりしないけどさ。全然、普通に喋っているじゃん。むしろ、前よりも全然、喋っているじゃん。その、人が死んだ実感てさ、なんというか……。」

「じゃあ、今、私が話しかけるのは迷惑だった?」

幽霊の少女は、少しだけ声のトーンを落とし、申し訳なさのニュアンスを付加させた。だが、そこには少年の真意を探るという意図も込められているようだ。

「……。」

しばらく沈黙が続くようである。『哲学』なんて言葉が出ていたが、興味深い問題ではある。少し考えてみるが、次の言葉まで読み飛ばしても何の問題もない。

死とは何なのか?それは勿論、生物という意味で考えた時は生命活動が停止した……ということである。しかし、例えば、とある大学(たしか同志社大学)で研究されていることだが、生前に音声を録音しておき、また、映像なども残しておき、死後にデジタルモデルの姿で合成音声で故人が話すという仕組みが開発されている。それは、残された伴侶や家族のためではある。残された家族が高齢者であるなら、日々の中の、擬似的ではあるがコミュニケーションを保つという意味合いもある。

それが現在の科学技術の到達レベルだが、もしも遠い未来に。肉体の死の後に、機械の身体、もしくは培養合成された第二の身体に乗り換え、なんらかの電子的な技術で、人間の意識、精神、心までも連続させることができるとするならば、肉体の死とは『死』となりうるのか?

怖かったから式だけで帰ったんだよ。 3-1.



人の身体のことは私は詳しくないが、人間の身体が生きていることは奇跡的なことらしい。勿論、確率の意味では、彼女のような死に方をする人の方が少ないのだが、夜寝て朝に目が覚める。起きた瞬間に意識が昨日と連続する。精神の流れに関しても、色々と考える部分はあるのだが、それは今は省略する。ずっと省略するかも知れない。

1秒前の肉体と、1秒後の肉体が同じように生きていることが当たり前のように思うが、何かが一つ狂えば、3秒後には死んでいるということは、普通にありえることだそうだ。例えば、脳や心臓の重要な箇所で、数百に満たない数であっても細胞の粒が、なんらかの原因で活動が止まれば死につながる。

そのようなことが起きない事が奇跡的であり、原因が分からないままに死んだ少女は、多くの人間に瞬間ごとに起きている奇跡が、何故かその夜には起きなかった。なんでそんなことをするのか?今度、会ったら文句を言ってやろうと思います。二人の話し合いは続いている。

「だってさ、昨日がお葬式じゃないか。なんの前置きもなくスルって、現れて。俺はさ、怖かったから式だけで帰ったんだよ。だから、その、もしかしたら生きているとか。お棺の中にいたけど、実は生きているとか、生き返るとか、そんなことを考えて、でも夜になって、そんなの全部、無理だって分かって……。」

「……もうちょっと、間をおいた方が良かったかな?」

「いや、そういうことじゃなくて……じゃあ、死って何?という感じ?」

お隣さんの女の子が生きていた。起きない事が奇跡的であり。 2-2.→3.

2-2.お隣さんの女の子が生きていた。

「え?ちょっと待って、分からない。俺、お葬式に行ったよね。」

「えーと。そうなの?ありがとう。」

「あ、どういたしまして。」

「ごめんなさいね。」

「は?」

春野雪乃は一昨日死んだ。

「あー……当日は、ちょっと出かけてましたもので。」

「はぁ?」

「だって、自分のお葬式とか嫌じゃないですか。怖いじゃないですか。」

「まぁ、気持ちは分かるけど?」

昨日が、お葬式。

「やっぱり怖いですよ。」

「じゃあ、当日はどうしてたの?」

「まぁ、家族も出払ってたので、街をブラブラと。」

「あ、そう。」

死んだと思ったお隣さんの女の子が生きていた……じゃなくて、幽霊になっていた。それが分かった時に必要なのは話し合いである。二人が話し合っている間に、一昨日の朝に何があったかを振り返ってみる。


3.起きない事が奇跡的であり。

次の日の朝、起きると少女は死んでいた。いや、起きなかった。前日に何か事故にあった訳ではなく、また、持病があった訳ではなく、なんらかの疾病を罹患していた訳でもなく。当然、殺人や、もちろん自殺でもなく。何の外傷もなく何の原因もなく。原因はあるかも知れないが、何か分からず。ただ、死んでいた。深夜から早朝にかけての時間。夜中の三時頃に急に心臓が止まり、そして、多分、苦しむこともなく死んでいた。

うどんスープで有名な会社と同じ名前。2-1.

2-1.うどんスープで有名な会社と同じ名前。

もしも、そのアイスが彼女の体の中の栄養を少しだけでも補給して、体温が一度でも下がり、家に帰る時間が五分でも遅れて、布団に入る時間が三十分ずれたなら、もしかしたら、こんなことにはならなかったのかも知れない。

このようなことが、何度も頭の中でグルグルと回り。部分的に増幅したり減衰したり、フラッシュバックしたり……総量は増えているようで変わりなく、ただ、拡散と凝縮を繰り返しているのかも知れない。

彼の名前は綿貫東丸[わたぬきひがしまる]。うどんスープで有名な会社と同じ名前のせいで『うどん』とあだ名で呼ばれたりするが、本人もうどんが好きなので、あまり気にしていない。『スープ』と呼ばれたことは今のところない。

「あ、今、パワーアップ。取らないの?」

「スピードは3がやりやすいし。」

ベランダからスルっと女の子が入ってくる。彼女の名前は春野雪乃[はるのゆきの]。わりと自己矛盾な名前な感じがするが、姓名というのはそういうものじゃあない。細田太さんだっているだろう。念のためググったけど、フェイスブックとかは出てこなかった。

雪乃は東丸の隣家に住んでいて、案の定というか幼馴染という間柄。家族ぐるみの付き合いってほどじゃあないけど、そこそこ仲が良い。しかし、ベランダをつたって部屋に入ってくるとは、ちょっとイキすぎな気がする。そのせいか、東丸もぎょっとしている。

「……えーと、君、死んだよね。」

「そのはずです。」

雪乃はベランダから入ってきたけど、ガラス戸は一度も開いていない。

参考文献


藤崎竜作品集 1 サイコプラス (集英社文庫―コミック版) (集英社文庫 ふ 26-1)

変な意地を張らないで。2.

2.変な意地を張らないで。

少年は、悔いていた。世界は一変してしまった。何をしていても、何を考えていても、寝ていても、起きていても、思考の基底部分に『後悔』と深く烙印されているような感覚。ずっしりと、頭を重くして、そしてギリギリと締め付けるような感覚。肩から首、頭頂部にかけてピリピリして、眼球が指で押し込まれるような鈍い重み、痛みがある。何を考えても、気分は決して晴れない。

去年使っていた教科書と今年の教科書がごっちゃに置かれている勉強机。べつに復習をするつもりではない。ただ適当に並べていて、間にはマンガが挟まっている。壁に向かって座っていても気分は晴れないが、外に出る気もしない。ゲームの内容なんて頭に入ってこないのだが、ただ、なんとなく携帯ゲーム機を開き、弾を避け、そして敵戦闘機を撃墜していた。

そうしながらも、ずっと彼は思っていた。心の中で、繰り返していた。混濁し、流れ、留まり、淀み、繰り返す心の声。

あの時、どうして僕は一緒に帰らなかったのだろうか。嘘をついたのだろうか。クラスメイトからひやかされる?何か起きるとすれば、それだけのことだったのかも知れないのに。変な意地を張らないで、一緒に帰れば良かったんだ。

あの日、コンビニに寄れば良かった。それで、次の日の朝のことが何か変わった訳じゃあないかも知れないが……それでも、僕の彼女との思い出は、一緒にアイスを食べた翌日に彼女が死んだということになり、意地を張って一人で帰ったのが最後……ということではなかったハズだ。たらればの世界。それで何かが変わった訳ではないだろう。だからこそ、悔いが残るんだ。

愛が地球を救う物語でもある。 1-1.

1-1.愛が地球を救う物語でもある。


「一緒にご飯は食べれる?」

「食べれるよ。さっき食べたじゃん。」

「でも、冷たいモノと熱いモノは違うじゃん。すり抜けたりしない?」

「食べれるよ。食べなくても平気だけど。」

ぐぅ。と音がなる。

「あ、あれ?」

「……お腹なるんだね。」

音は空気中の振動、波、音波であると考えると、その音が鳴ったのは、いささか不思議ではあるのだけど、確かに「ぐぅ」という音が鳴ったのである。

「……ファ、ファミレスとか行く?何が食べたい?」

「うどん定食とか?」

「うどん……。」

「あ、別にアダ名とかでじゃないからね。」

「あ、いやそうじゃなくて、幽霊がうどんを食べるって……。」

そう。この物語は、幽霊になってしまった彼女と、その死を悔いる少年との悲しみの物語でもある。多分、きっと悲しい。そして、愛が地球を救う物語でもある。きっと救う。多分、救う。おそらく。うどんを食べる物語ではないと思う。さらに遡ること一ヶ月前。


田んぼの真ん中に立つ中学校の登校口で一人の少女が待ち伏せをしていた。

「あ、暑くなってきたからさ、久しぶりにコンビニでも寄ってかない?」

「……。」

「アイスでもおごるよ?」

「……今日はいいや。その、ちょっと約束とかがあるし。」

「そうなの?」

「吉田の家に寄ってくんだ。じゃあ。」

その日、二人は別々の道を通って下校することになった。そして、その三日後。

ゲームスタート デジタル・カノジョ。 1.

1.ゲームスタート デジタル・カノジョ。


「一緒に手をつないで歩けますか?」

「うーん。難しいのかな。選択肢としてはあるけど。」

「一緒に映画には行ける?」

「行けるよ。チケット代浮くね。」

「でも他の人の迷惑になるんじゃない?」

「迷惑とは何事か。」

「ごめんなさい。」

「……例えばだけど、結婚とかできるのかな?」

「……。」

「あ、いや、そういうのあるのかなって。」

「気持ちの問題……?」


コンビニの片隅で、一人の少年がマイクに向かって、ヒソヒソと話していた。耳には、イヤホンがついていて、そのどちらもが、彼の手元の機械、玩具に接続されていた。その玩具とは、任天堂が発売している携帯ゲーム機、ニンテンドー3TSである。三つの画面の一つには、中学生くらいの美少女が映し出され、他の二画面には、ゲームの中の景色とか、電話などのアイコンが並んでいる。

そう、彼はゲームの中の女の子に話しかけていたのだった。好奇の目で見られそうな光景だが、幸いコンビニの中に人はなく、ただ一人の店員もバックヤードに引っ込んでいるようであった。


「ちゃんと話したのは初めてだっけ?こういうこと。」

ゲームの中の少女が話しかける。

「そうだね。まぁ、さぐりさぐりだったから。」

「実は、生き返る方法があるって言ったらどうする?」

「……え。」

「なんてね。」

「……。」

どうやら、この少年は、かなり重症のようである。物語の中の登場人物に恋をするように、ゲーム機の中の少女に恋をしているらしい。もっとも、3TSに挿入されているゲームは、恋愛シミュレーションゲームのようだが……結婚を話題にしてしまうのは、やはり重症だと思えてしまう。

この物語は、ゲーム好きの少年と、ゲームの中の少女の物語である。そして、遡ること2ヶ月前。

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